- うつ病ではどのような治療が行われるの?
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うつ病の治療は、大きく分けて「休養」、「薬物療法」、「精神療法」があります1)。
- うつ病では休むことが大事?
- うつ病では、脳細胞の活動性のバランスが崩れているため、休養して脳を休ませる必要があります。うつ病の治療では、「休むこと」も大事なことなのです。休養の秘訣はとにかく何もしないことです。
休養はうつ病治療の1つですが、患者さんによっては、生活リズムが崩れるなど、症状が悪化するリスクが考えられる場合は、休養せずに治療を行うこともあります2)。
- うつ病の薬物療法って?
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うつ病の薬物療法では、主に抗うつ薬が用いられます。
うつ病患者さんの脳内では、脳細胞どうしの連絡を担っているモノアミンという物質の働きが弱まっていると考えられています。そのため、脳細胞の活動性のバランスが崩れてしまいます。
薬物療法で用いる抗うつ薬には、モノアミンの働きを強くする作用があります。うつ病に関連するモノアミンには、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンがあります。なかでも、セロトニンは不安や緊張、衝動性に、ノルアドレナリンは興味や意欲に関係することが知られています3)。
また、症状が軽い患者さんにはお薬が処方されないこともあります。
主な抗うつ薬3)
| カテゴリー |
作用 |
SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) |
セロトニンの働きを強くします。 |
SNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) |
セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。 |
NaSSA (ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬) |
SSRI、SNRIとは異なった作用により、セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。 |
| 三環系抗うつ薬 |
セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。 |
| 四環系抗うつ薬 |
S-RIM (セロトニン再取り込み阻害/セロトニン受容体調節薬) |
セロトニンの働きを強めたり、調節したりします。 |
その他 (セロトニン遮断・再取り込み阻害薬/抗ドパミン薬) |
セロトニンの働きを強めたり、 セロトニン/ドパミンの働きを調節したりします。 |
伊豆津宏二ほか 編集:今日の治療薬(2025年版). 南江堂, 東京, 2025より改変・作表
- 薬物療法で注意することは?
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効果を感じない、副作用があらわれた、症状が治まったなどの理由で、自分の判断で抗うつ薬の服用を中止したり、量を減らしたりしないでください。症状の悪化や、再発の可能性があります。医師から決められた服用量と服用期間を守ることが大切です。抗うつ薬に関して疑問があれば、医師に相談してください。
多くの抗うつ薬は、効果があらわれるまでに2~3週間かかります。また、抗うつ薬を飲み始めた当初は、効果よりも副作用のほうが先にあらわれる場合もあります。副作用のあらわれ方は人によって異なります。服用する抗うつ薬の副作用については、服用を開始する前に医師から聞いておきましょう。自分が服用する抗うつ薬の副作用について知っておくことは、副作用への適切な対処につながります。
- 精神療法ではどのようなことをするの?
- 精神療法では、患者さんの考え方やできごとへの対処法を見つめなおし、患者さんのこころをサポートします。
代表的な精神療法として認知療法や行動療法があります。認知療法では、自分自身の考え方(認知)の傾向を理解して、より現実的で問題が解決しやすい「もののとらえ方」を学びます4)。行動療法では、自分自身の行動を分析して、行動に変化や修正を加えることで、行動によるこころの状態変化を学びます4)。この2つを組み合わせたものを認知行動療法といい、職場への復帰を目指した復職支援(リワーク)プログラムでもよく取り入れられています2)。
【出典】
- 1)落合慈之 監修:精神神経疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社, 東京, 2015
- 2)山本晴義 監修:図解やさしくわかる うつ病からの職場復帰, ナツメ社, 東京, 2015
- 3)浦部晶夫ほか 監修:今日の治療薬(2019年版), 南江堂, 東京, 2019
- 4)上島国利 監修:最新図解 やさしくわかる精神医学, ナツメ社, 東京, 2017
診察になると、うまく話せなくなってしまう。
本当は伝えたいことがあるのに、言えないまま
終わってしまう。
そんな経験はありませんか。
一方で、きちんと話せているつもりでも、
自分の想いや希望が医師へ十分に
伝わっていないこともあるかもしれません。
自分の想いや希望を大切にする治療のために。
医師と一緒に治療を考えていく
“診察との向き合い方”をご紹介します。
監修:杏林大学医学部 精神神経科学教室 教授
渡邊 衡一郎 先生
うつ病の治療は、治療者が一方的に決めるものではありません。治療者は医学的に適切だと考えられる選択肢を提示し、当事者の方はご自分の想いや希望、大切にしたい価値観を伝えます。そうしたやり取りを通して治療の目標を共有し、一緒に病気に向き合っていくことが大切です。今回は、杏林大学医学部 精神神経科学教室 渡邊 衡一郎 先生に、治療者と当事者の方との双方向性のコミュニケーションについて、お話をお聞きしました。
- うつ病の診療で、当事者の方やそのご家族と治療者との間の「双方向性のコミュニケーション」は、なぜ大切なのでしょうか。
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うつ病の当事者の方やそのご家族と治療者が双方向性のコミュニケーションをとることは、ご本人の状況や価値観に沿った治療を一緒に考え、治療への納得感を高める上で大切です。
しかし、うつ病の当事者の方では「自分が悪い」、「自分はだめだ」と自分を責めやすく、治療者に対して緊張や不安を感じ、気持ちをうまく話せなくなることも少なくありません。
だからこそ私は、「あなたが悪いわけではありませんよ」、「一人で抱えこまなくて大丈夫ですよ」と、安心していただくための声かけを大切にしています。
初診では、生い立ちや生活の様子など話しづらいことをお聞きする場面もありますが、その際は「診断や治療を考える上で大切なので」など、前置きをしてからお聞きしています。最初はうまく話せなくても、関わりを重ねる中で少しずつ対話が生まれ、自然なやり取りができるようになります。双方向性のコミュニケーションは、治療者と当事者の方・ご家族との信頼関係そのものを育てていくプロセスだと考えています。
- 治療者側はどのようなことを意識しながら診療を行っているのでしょうか。
- 私は、「治療方針は治療者が一方的に決めるものではなく、当事者の方やご家族と一緒に考えていくもの」だと捉えて診療を行っています。この考えは多くの治療者に共通するものだと思います。
しかしながら、うつ病では集中力や記憶力の低下といった認知機能に関連する症状がみられることがあり、治療者の説明がなかなか頭に入りづらいことがあります。
そのため私は、やさしい言葉や図解でまとめられたパンフレットなど、目で見て分かりやすい資材を使いながら説明するようにしています。また、急ぎの対応が必要な場合や当事者の方の希望がある場合を除き、初診ですぐに治療を開始することはあまりありません。いったん資料をお渡しして「今日は持ち帰って、次回また一緒に考えましょう」とお伝えし、ご本人が考えを整理する時間を取るようにしています。
こうした関わりの中で、ご自身の病気や治療について少しずつ納得できるようになり、治療方針について意見を交わしていくことで、安心感や満足感につながります。その積み重ねが、自然と信頼関係を育てていくのだと思います。
- 診察の場で、当事者の方がご自分の想いや希望を治療者に伝えるには、どのような工夫ができるでしょうか。
- ご自身の想いや希望を、事前にメモしておくのも一つの方法です。聞いてみたいことや今感じている不安、気になっていることなどを書いておくと、診察時にスムーズに伝えることができるでしょう。また、毎日の睡眠時間やその日の気分、出来事などを記録することも良い方法だと思います。日本うつ病学会のウェブサイトには、就寝や起床の時間、眠りの状態、その日の気分などを記入できる「睡眠・覚醒リズム表」が掲載されています。記録をつけることで睡眠や気分の変化が「見える化」され、ご自身の体調や生活状況を言語化しやすくなり、治療者とのコミュニケーションにも役立つでしょう。
ただし、外来の診察時間には限りがあります。普段より時間をかけて相談したい場合は、事前に医師や受付へ伝えておくことをおすすめします。診察が長引いても他の患者さんに支障がないよう、外来の最後に予約を入れるなど配慮してもらえると思います。
また、会話だけがコミュニケーションではありません。表情や身なり、歩き方など、言葉以外のところからも、治療者は多くの情報を受け取っています。うまく話せない日があっても大丈夫です。顔を見せていただくだけでも、診察としては十分に意味があると思っています。
- うつ病の治療では、どのような状態を目指していけばよいのでしょうか。
- うつ病の治療のゴールは、症状が軽くなることだけではありません。大切なのは、ご本人の「どうなりたいのか」、「どんな自分になりたいのか」という想いを実現できることです。病気のために、仕事や人付き合いなど、さまざまなことに対して思うように動けないと感じている方も多いでしょう。だからこそ、治療が進んだ先で「何を大切にしたいか」「どこを目指したいか」を一緒に考えていくことが重要だと思います。
しかし、「あなたのゴールは何ですか」と治療者から聞かれても、すぐには答えられないこともあるでしょう。疲れているなかで答えを急かされると、かえって負担になりかねません。ですから私は、「今すぐ答えなくて大丈夫なので、次回までに少し考えてみてください」とお伝えするようにしています。
治療のゴールは、働きたい、友人と出かけたい、旅行に行きたいなど、どんなことでも構いませんし、漠然とした想いでも十分です。一度決めた目標が1ヵ月後に変わっても大丈夫です。そうした希望を医師と共有しながら、自分らしいゴールを見つけていくことが、うつ病治療の大切な目標だと考えています。
- うつ病診療に向き合うご本人やそのご家族に向けて、メッセージやアドバイスはありますでしょうか。
- 近年、MBC(Measurement Based Care)と呼ばれる考え方が注目されています。Measurementとは測定を意味し、質問票などを使って症状やこころの状態を数値として「見える化」することで、その結果を治療者と当事者の方が共有しながら治療の進め方を話し合って決めていく方法です。症状の「見える化」により、言葉にしづらい症状やつらさを伝えやすくなり、経時的な病状の変化を確認できるようになります。経過を振り返り、今後について治療者と一緒に考えていくことは、治療への納得感や安心感につながり、双方向性のコミュニケーションという観点からも大きな意味があると感じています。
うつ病と向き合う皆さまには、病者としてではなく、一人の人間として、自分自身を理解してもらうことを意識していただきたいと思います。症状だけでなく、自分が大切にしたいことは何か、どのような生活を送りたいかといった希望を治療者にしっかりと伝えて、より良いうつ病診療を一緒に作り上げていきましょう。