本コンテンツ「はたらくこと」では、自分に合った「うつ病との向き合い方」を見つけ、少しでも前向きにうつ病治療に取り組んでいただけるように、仕事や家事、学業などにおいて知っていただきたいことを紹介しています。
動画では、うつ病の診断から復帰までの道のりを簡単にまとめています。
もし「文字を読むことがつらい」、「情報量が多すぎる」と感じた場合は動画だけでもご覧になってみてください。
うつ病と上手に向き合いながら”はたらくこと”について実践していただきたいことを紹介します。
1自分のペースで受け止める
うつ病を受け止め、理解することが回復への第一歩です。うつ病の受け止め方は人それぞれであるため、ゆっくりでもよいので、自分のペースでうつ病を受け止めましょう。
2あきらめることを覚える
あきらめは絶望ではなくリセットです。これまでの自分を見つめなおし、負担になっている目標や目的をあきらめることも考えてみましょう。
3自分を責めない
自分を責めることは、うつ病の症状の1つでもあります。
また、うつ病は、自分自身で発症を防ぐことが難しい病気です。「自分が悪かった」と思いつめないようにしましょう。
4副作用をよく知ること
服用している薬の副作用をよく知ることは、早期の適切な対処へつながります。副作用があらわれた場合は、勝手に中断せずに、医師に相談しましょう。
5休養に専念する
医師から休養が必要と判断された場合、休養に専念することが、回復に向かうために重要です。何もせず、こころとからだを休ませましょう。
6お薬を勝手に中止しない
自分の判断でお薬の服用を中止したり減量することは、症状の悪化や再発を引き起こすことがあります。お薬に関することは自分で判断せずに、医師や薬剤師に相談しましょう。
7自分なりの意義を持つ
物事のとらえ方によって、ストレスの感じ方は変わります。
たとえ無意味に思えるようなことであっても、自分なりの意義を持つことで、ストレスを減らすことができます。
8完璧を目指さない
うつ病から回復した状態を維持するためには、無理をせず、完璧を目指すことはやめましょう。うつ病発症前のペースで生活しないことが大切です。
9エネルギーを意識して過ごす
エネルギー(体力や気力)には限界があります。
復帰した後は、自分のエネルギー量を意識して、無理しないようにしましょう。
10迷わず医師を頼る
うつ病から回復した後も、こころやからだの調子が悪くなることがあるかもしれません。そのようなときは、迷わず医師を頼ってください。どんなことでも早期の対応が大切です。
より前向きにうつ病治療と向き合うため、就業や家事、学業とうつ病治療との、よいバランスを保つ必要があります。
ここではどのように就業や家事、学業とうつ病治療のバランスをとればよいのかをQ&Aで紹介します。
さまざまな支援制度があるので、確認してみましょう。(支える制度)
企業に勤めている場合、職場の休職制度や労災補償、傷病手当などを活用することで、収入がゼロになることを避けられます。
もし制度の利用についてわからないことがあれば、地域の役所や精神福祉保健センター、医療機関の精神科ソーシャルワーカーなど、補償制度に詳しい専門家に相談してみましょう1)。
補償制度を活用することで、休職中の収入がゼロになることを避けられます
うつ病の状態を診察したうえで、休養により生活リズムが崩れることで、うつ病が悪化するリスクが考えられる場合は、休養せずに治療を行うことがあります2)。
また、うつ病が軽度な場合、医師がうつ病の状態や就業状況、職場環境、患者さんの性格などから総合的に判断し、治療方針を決定します3)。その際、医師が休養や休職の判断を行うため、ご自身の希望とは異なる場合があります。
休職に必要なものは診断書です。
休職の手続きは、上司や人事を介して行います。その際、診断書を提出する必要があります。また、休職中の連絡先や会社の連絡窓口を決めておく必要があります。休職のために使用する休暇制度の期間や傷病手当、労災などの保障制度についても相談しておきましょう2、4)。
上司や人事と、休職するための面談を行う場合、医学的な説明が難しいと感じたら医師に相談しましょう2)。また、医師から休職が必要と診断された1~3日以内には会社を休めるように調整しましょう4)。このとき、無理して仕事を続けてしまうと、症状が悪化したり、回復が遅れることがあるため、仕事の引継ぎを最小限に抑え、無理せず速やかに休むことが大切です2、4)。
休職までの流れ
休養・休職時は、仕事の内容に関する連絡はできるだけ避けてください。しかし、体調や状況については月に1回程度職場に連絡するようにしましょう。そうすることで、あせりや不安などと、復職への意欲とのバランスをとっていくことができます2、4)。
うつ病の治療の期間は、「急性期」、「回復(継続治療)期」、「再発予防(維持治療)期」と大きく3つの期間に分けられ、各期間の長さは大まかに「急性期」が6~12週間、「回復期」が4~9ヵ月、「再発予防期」が1年以上とされています(図)5、6)。(うつのこと-うつ病と歩む道)
急性期にあたる休養期間の初期は、「休むこと」が何より重要です。お薬を飲んで休むことに専念しましょう2)。
休養期間中は、症状が良くなったり悪くなったりと波はありますが、徐々にお薬の効果があらわれます。毎日の生活に物足りなさを感じ、たとえば、読書などへの集中力や意欲を感じたら回復期のサインです。医師と相談し、復帰・復職のための準備に取りかかりましょう2、4)。
図:うつ病の治療経過
Kupfer DJ, J Clin Psychiatry. 1991; 52 Suppl: 28-34.より改変
以下が復職できる目安(判断基準)とされています8)。
<判断基準の例>
回復期(うつのこと-うつ病と歩む道)、つまり復職する前の期間では、少しずつ生活リズムを整えていきましょう9)。
生活リズムの調整に際して、何時にどのような活動(起床、食事など)をしたのか記録する「生活記録表」をつけると、自分の生活リズムがより把握しやすくなります(図)2)。
回復とともに生活への意欲もわいてくると思います。しかし、あせってうつ病発症前の生活リズムに戻すと悪化する可能性があるため、気をつけましょう。
外出や運動ができるようになってきたら、医師と相談して復職支援(リワーク)プログラムを活用してみるのもよいかもしれません2)。また、料理などの家事や通勤訓練、仕事に関する作業や勉強なども、この時期には実践しても構わないと考えられるので、医師に相談してみましょう10)。
医師が本格的に復職できると判断した場合、職場の人と面談の場を設け、復職について相談しましょう。また、それまでに復職支援プログラムを受けていれば、面談前にそのことを職場の人へ伝えておくと、話がスムーズに進むでしょう。面談の場では、自分の希望を伝え、復職予定日や試し勤務、復職プランなどについて話し合いましょう2)。
図:生活記録表(例)
山本晴義 監修:図解やさしくわかる うつ病からの職場復帰, ナツメ社, 2015
再休職を防ぐためには、復職前の休職のきっかけとなった原因を探し、対策を立てることが重要です。
復職後に仕事で無理をしてしまい、多くの患者さんがうつ病を再発し、再休職しています。
これは、休職前と同じ仕事を担当し、同じようなストレスを抱えることが、再発の原因となることを認識できていないことが原因としてあげられます11)。
再発による再休職を防ぐための支援制度として、復職支援(リワーク)プログラムがあります。このプログラムは医療機関のほかに、精神保健福祉センターのような公的機関や、NPO法人などの施設でも実施しています2)。
復職支援プログラムを受ける場合、復職の準備をしていることを職場の人に伝えましょう。職場の人に復帰の見通しを伝えることで、復帰への不安が軽減され、スムーズな本格復帰につながります2)。
実際、復職支援プログラムを受けた患者さんでは、受けていない患者さんと比べて復職後の継続率が高いこともわかっています(図)12)。
図:復職支援プログラムを利用した患者さんと
そうでない患者さんの就労継続率の比較
五十嵐良雄:日本労働研究雑誌 695(6):62-70, 2018
復帰までに必要な能力を回復することを目的として、以下のようなことを行います2)。
オフィスワーク
パソコンを使った資料作成や、
会社を想定したロールプレイなどを行う。
グループワーク
他の参加者とディスカッションや共同作業を行い、
協調性を身につける。
運動
卓球やダンスなどのチームワークを必要とする
スポーツでは協調性も身につく。
心理教育
うつ病に関することや、うつ病患者さんの
社会復帰の方法などについて授業を受ける。
復職支援プログラムでは、患者さんは自宅から施設まで通勤と同じように通います(通所)。これはプログラムの一環であり、多くの場合、最初は週2日程度の通所から始め、徐々に日数を増やしていきます。患者さんの状態や希望によりますが、約半年ほど通所を続けます。
プログラムの内容や費用は施設ごとに異なりますが、内容に関わらず、うつ病の患者さんのグループで参加することが多いため、同じようにうつ病に苦しみ、職場復帰への不安をもつ仲間ができることは大きな力になるかもしれません。
個人でできるリハビリや復職プログラムがあります。復職を目指したいのに近隣に通所型の施設がない患者さんや、どうしても施設を利用したくない患者さん、専業主婦の患者さん、まだ就業する予定のない患者さんは、以下の方法を医師と相談して試みてください10)。
【出典】
休職する際に、診断書と一緒に提出することで、休職の手続きを円滑にするためのシートです。
「PDFのダウンロード」ボタンを押して、PDFの保存・印刷をしてください。
印刷した「休職等相談シート」に氏名、提出日、提出先、休職スタート日、休職中の連絡先、緊急連絡先を記入してください。
また、休職の面談の際に、ご自身が会社へ連絡する場合に必要な各種連絡先や、休職のために利用する制度とその制度を利用できる期間を、職場の人に記入していただきましょう。
うつ病に関してどのような印象や認識をもっていますか?ここでは仕事や家事、学業とうつ病に関する誤解を紹介します。
“自分はストレス耐性が
強いから大丈夫„
うつ病の発症要因はストレスだけではありません(うつのこと-うつ病と歩む道)。
そのため、誰にでも発症のリスクがあります。また、結婚や昇進など、ポジティブな出来事にもストレスは生じるため、自分が感じている以上に、受けているストレスが大きい場合があります1)。
“診断は受けたが、うつ病ではなく
睡眠不足と疲労が原因なだけだ„
うつ病を受け入れず、治療せずにいると症状が悪化するおそれがあります。
うつ病と診断された場合、患者さんによっては、自分がうつ病であることを納得できない、または、「自分はそんなに弱くない」、「自分はうつ病でも元気」などと病気を軽視したり、否定的にとらえることがあるかもしれません。
しかし、治療が遅れると症状が悪化する可能性があります。そのため、診断後は、まず真摯に治療と向き合うことから始めましょう1)。
“うつ病は挫折、人生の終わり„
悲観的な感情は、うつ病の症状の1つでもあります。
うつ病と診断され、「うつ病は挫折、人生の終わり」などと思う患者さんは、そもそも頑張りすぎていたのかもしれません。
自分に対して悲観的になっている時期に、無理して明るくふるまう必要はありません。悲観的な感情も、うつ病の症状であると理解して、治療を続けることが大切です。治療によって症状を改善することは、悲観的な思考から抜け出す方法の1つです1)。
“休んで迷惑をかけたぶんを取り戻さ
なきゃ„“休んだので自分だけ遅れて
いる、早く追いつかなきゃ„
あせらず自分のペースで、できることから始めることが復帰を成功させるための第一歩です1)。
休養したことに対するあせりや、負い目を感じることもあるでしょう。しかし、症状が十分に回復しないまま復帰したり、復帰後に頑張りすぎると、復帰後の負担に耐え切れない可能性があり、再発につながるおそれがあります。再発した場合は、再び休職が必要になるため、自分のペースを大切にしましょう。
“早くうつ病を発症する前と
同じ自分・生活を取り戻したい„
うつ病を発症する前までに、自分が無理をしていたことや、生活や仕事に無理があったことがうつ病を発症した原因の1つである可能性があります。
復職支援プログラムや精神療法を受けるうちに、そのことに気づくことができるかもしれません。また、回復後に目指すのは、新しい自分と新しい生活です。過去と現在の自分を認め、ありのままの自分になることが、気持ちを一新することへつながります1)。
“復職への準備は万端だ、
穏やかに復職できるはず„
多くの患者さんが、不安や緊張の中で復職します。
復職支援プログラムなどを受け、復職への準備を整えた患者さんであっても、復職当初は緊張します。復職当初に穏やかな気持ちを保てないことは、復職する患者さんの多くが経験することです。緊張することは、復職への準備が不足していることや、うつ病の症状が回復していないことが原因ではありません。
復職するときに大事なことは、無理をしないことです。つらいときはまわりにサポートを求めるなど、頑張りすぎないようにしましょう1)。
“治療が終わったので、もう二度と
うつ病になることはないだろう„
治療で自分が本来もっているもろさ(うつ病になりやすい特徴:完璧主義、悩みを抱え込むなど)を変えることは難しく、仕事や家事などで無理をすれば、うつ病を再発してしまう可能性があります。
うつ病の原因は1つではなく、遺伝的要因や身体疾患やこれまでの経験、性格、自分を取り巻く環境、そしてストレスが考えられます2)(うつのこと-うつ病と歩む道)。それらを把握・理解することで、対策を立てることはできます。もろさを変えることは難しいですが、復職支援プログラムや精神療法などでは、そのもろさも含め、自分が本来もっている気質と一緒に生きていけるような対策を身につけていきます1)。
“不幸なのは自分のせい„
不幸だと思い、自分を責めてしまうのは、うつ病の症状でもあります。
不幸だと思うのは、憂うつや悲しみなどの「抑うつ症状」と呼ばれる症状であり、自分のせいと自分を責めてしまうのは、「無価値観・罪業感」と呼ばれる症状です(うつのこと-うつ病の症状)。
治療を受けてうつ病の症状が回復へ向かうことで、そういった考えは薄れていくでしょう。また、精神療法や復職支援プログラムなどで考え方を学ぶことで、「不幸なのは自分のせい」と思うことはうつ病の症状であることを理解でき、気持ちが楽になるかもしれません1)。
“仕事や勉強ができないのは
自分のせい„
仕事や勉強ができないのは、うつ病の症状の1つかもしれません。
うつ病では、判断力や集中力、記憶力の低下があらわれることがあります2、3)。また、自分のせいと自分を責めてしまうのは、「無価値観・罪業感」と呼ばれる症状です(うつのこと-うつ病の症状)。これらの症状により、仕事や家事、学業に支障が生じることがあるため、治療を受けに行きましょう2、3)(うつのこと-病院へのかかり方)。
“家事は自分がやらなければ„
医師から休養が必要と判断された場合は、何もしないように心がけ、十分に休養をとってください。
家庭内での家事などを任されている場合は、休養中でも気が休まらないことがあるかもしれません。その場合は、休養が優先すべきことだと考え、周囲にサポートを求めましょう。しかし、自宅での休養が難しい場合は、入院してじっくり休むという選択肢もあります。家庭内での状況を医師に相談してみましょう4)。
うつ病の残遺症状は個々の患者さんによって異なり、残遺症状に伴う生活・仕事などでの困りごとも異なります。残遺症状の影響で社会機能注1)が落ちることもあり2)、生活の質(QOL)が下がることも報告されています4)。
よくみられる残遺症状を以下に示します1-5)。
うつ病の残遺症状の中でも、認知機能の低下は重要です。主観的な認知機能障害が、抑うつ気分と同様に労働生産性の低下、すなわちプレゼンティーイズム(presenteeism)注2)を引き起こしかねないことが示唆されています6)。つまり、残遺症状は仕事などをするうえでも大きな問題になります。
下の動画もご参照ください。
注1)社会機能:個人と環境の相互関係(例:仕事、社会活動、パートナーや家族とのかかわり)の中で、個人が役割を果たす能力とされています7,8)。
注2)プレゼンティーイズム:「健康に問題を抱えながら出勤(仕事)をしている状態」で、「仕事のパフォーマンスが下がる状態(労働生産性の低下)」を含めることもあります9)。
【出典】
はたらくこと-うつ、ここから晴れ
うつのこと-うつ病の残遺症状について