これから治療を始める方へ

うつ病の経過や向き合い方、治療に関する情報を集めました。うつ病への理解を、少しずつ深めてみませんか。

コンテンツの内容を簡単にまとめた動画をご用意しました。
もし「文字を読むことがつらい」、「情報量が多すぎる」と感じた場合は動画だけでもご覧になってみてください。
動画では、うつ病がどのような病気なのかを簡単にまとめています。

  • うつのこと

    うつのこと
  • うつとの向き合い方

    うつとの向き合い方
  • うつ病治療について

    うつ病治療について

うつ病について

うつ病とは?
うつ病は、さまざまな原因により、脳細胞の活動性のバランスが崩れることでおこります(うつのこと-うつ病と歩む道)。そのため、こころのエネルギーが欠乏してしまったような状態になります1)。こころのエネルギーが欠乏してしまうと、憂うつや興味がわかなくなるなどの「こころの症状」や、睡眠障害などの「からだの症状」があらわれます。
また、憂うつで気分が落ち込むことは誰にでもありますが、うつ病は、長期間にわたり強い抑うつ症状が続くことで生活に支障が生じます。患者さんによっては、こころの症状よりも、睡眠障害や頭痛、食欲不振などのからだの症状の方が目立つ場合もあります。
うつ病は珍しい病気?

日本人では、一生のうちにうつ病を発症する人が18人に1人以上(5.7%)とされており2)、うつ病は決して珍しい病気ではありません。
2017年度の厚生労働省 患者調査3)で、うつ病患者さんの総数は約96万人とされており、うつ病患者さんの総数は年々増えています(図)。

図:うつ病患者さんの総数の推移

図:うつ病患者さんの総数の推移

注:平成23年は宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏及び福島県を除いた数値
厚⽣労働省:平成29年患者調査(傷病分類編)より作図

よく似た病気との違いは?
うつ病とよく似た病気の1つに双極性障害があります。うつ病と双極性障害は、ともに抑うつ症状(うつのこと-うつ病の症状)があらわれる病気です。うつ病との大きな違いは、双極性障害では「いつもより活動的で調子が良いと感じた時期」、「普段より仕事がはかどった時期」や「よりたくさんアイデアが浮かんだ時期」などのような、「躁状態」とよばれる状態や時期があらわれることです4)。しかし、双極性障害の患者さんは、抑うつ症状があらわれている時に来院することが多いため、間違ってうつ病と診断されることが多くあります。もし「躁状態」に心当たりがある場合は、診療の際に医師に相談しましょう4)
うつ病に重症度ってあるの?

うつ病にも重症度があり、症状による仕事や日常生活への支障の程度によって重症度を評価しています1)

重症度 症状
軽症
仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションへの障害はわずかで、
周囲の人はあまり気がつかないことも多い
軽症
中等症
軽症と重症の間
重症
仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難
軽症

厚生労働省ホームページ「こころの耳、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」より作表

【出典】

  • 1)厚生労働省ホームページ「こころの耳 ご存知ですか?うつ病 1 うつ病とは」http://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad001/
  • 2)川上憲人(主任研究者):精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究, 世界精神保健日本調査セカンド総合研究報告書, 2016(http://wmhj2.jp/report/)
  • 3)厚⽣労働省:平成26年患者調査(傷病分類編)
  • 4)日本うつ病学会 監修:うつ病治療ガイドライン 第2版, 医学書院, 東京, 2017

うつ病と歩む道

うつ病の原因は?
うつ病の原因は、1つではなく、遺伝的要因や身体疾患、これまでの経験、性格、自分を取り巻く環境、そしてストレスが積み重なり、脳細胞の活動性のバランスが崩れることで発症します。
また、うつ病の多くは、重要なできごとや、慢性的な過労状態など、ストレスを感じるような状況の後で発症します(図)1)
図:うつ病の発症原因

図:うつ病の発症原因

どのくらいの期間治療が必要?

うつ病の治療期間は、「急性期」、「回復(継続治療)期」、「再発予防(維持治療)期」と大きく3つの期間に分けられ、各期間の長さは「急性期」が6~12週間、「回復期」が4~9ヵ月、「再発予防期」が1年以上とされています(図)2、3)うつのこと-うつ病と歩む道)。
うつ病の治療を始めればすぐに症状が回復するわけではなく、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ回復に向かいます(図)。

うつ病は、治療しなかった場合でも6~12ヵ月で6~7割が改善するとされています4)。しかしその一方で、1年以上症状が改善しないこともあります1)。そのため、症状の悪化を防ぐためにも、医師の診療を受けることが大切です。
ただし、うつ病の治療を受けても、症状改善後の半年間は再発率が高いことがわかっています4)。そのため、ほとんど症状があらわれない寛解に達した後も、根気強く治療を続け、「回復期」と「再発予防期」を過ごすことが大切です1)

図:うつ病の治療経過

Kupfer DJ, J Clin Psychiatry, 1991; 52 Suppl: 28-34.より改変

Kupfer DJ, J Clin Psychiatry, 1991; 52 Suppl: 28-34.より改変

【出典】

  • 1)野村総一郎 監修:入門 うつ病のことがよくわかる本, 講談社, 東京, 2018
  • 2)厚生労働省ホームページ「こころの耳 ご存知ですか?うつ病 1 うつ病とは 」http://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad001/
  • 3)Kupfer DJ:J Clin Psychiatry, 52 Suppl:28-34, 1991
  • 4)落合慈之 監修:精神神経疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社, 東京, 2015

うつ病の治療法

うつ病ではどのような治療が行われるの?

うつ病の治療は、大きく分けて「休養」、「薬物療法」、「精神療法」があります1)

うつ病ではどのような治療が行われるの?
うつ病では休むことが大事?
うつ病では、脳細胞の活動性のバランスが崩れているため、休養して脳を休ませる必要があります。うつ病の治療では、「休むこと」も大事なことなのです。休養の秘訣はとにかく何もしないことです。
休養はうつ病治療の1つですが、患者さんによっては、生活リズムが崩れるなど、症状が悪化するリスクが考えられる場合は、休養せずに治療を行うこともあります2)
うつ病の薬物療法って?

うつ病の薬物療法では主に抗うつ薬が用いられます。
うつ病患者さんの脳内では、脳細胞どうしの連絡を担っているモノアミンという物質の働きが弱まっていると考えられています。そのため、脳細胞の活動性のバランスが崩れてしまいます。
薬物療法で用いる抗うつ薬には、モノアミンの働きを強くする作用があります。うつ病に関連するモノアミンには、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンがあります。なかでも、セロトニンは不安や緊張、衝動性に、ノルアドレナリンは興味や意欲に関係することが知られています3)
また、症状が軽い患者さんにはお薬が処方されないこともあります。

主な抗うつ薬3)

カテゴリー 作用
SSRI
(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
セロトニンの働きを強くします。
SNRI
(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。
NaSSA
(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
SSRI、SNRIとは異なった作用により、セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。
三環系抗うつ薬 セロトニンとノルアドレナリンの働きを強くします。
四環系抗うつ薬
その他
(セロトニン遮断再取り込み阻害薬や抗ドパミン薬、
セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)
セロトニンやドパミンなどの働きを強くしたり、
調節したりします。

浦部晶夫ほか 監修:今日の治療薬(2021年版), 南江堂, 東京, 2021より改変・作表

薬物療法で注意することはありますか?
効果を感じない、副作用があらわれた、症状が治まったなどの理由で、自分の判断で抗うつ薬の服用を中止したり、量を減らしたりしないでください。症状の悪化や、再発の可能性があります。医師から決められた服用量と服用期間を守ることが大切です。抗うつ薬に関して疑問があれば、医師に相談してください。

また、抗うつ薬の服用期間については、こちらをご覧ください。
うつのこと-うつ病と歩む道

多くの抗うつ薬は、効果があらわれるまでに2~3週間かかります。また、抗うつ薬を飲み始めた当初は、効果よりも副作用のほうが先にあらわれる場合もあります。副作用のあらわれ方は人によって異なります。服用する抗うつ薬の副作用については、服用を開始する前に医師から聞いておきましょう。自分が服用する抗うつ薬の副作用について知っておくことは、副作用への適切な対処につながります。
精神療法ではどのようなことをするの?
精神療法では、患者さんの考え方やできごとへの対処法を見つめなおし、患者さんのこころをサポートします。
代表的な精神療法として認知療法や行動療法があります。認知療法では、自分自身の考え方(認知)の傾向を理解して、より現実的で問題が解決しやすい「もののとらえ方」を学びます4)。行動療法では、自分自身の行動を分析して、行動に変化や修正を加えることで、行動によるこころの状態変化を学びます4)。この2つを組み合わせたものを認知行動療法といい、職場への復帰を目指した復職支援(リワーク)プログラムでもよく取り入れられています2)

【出典】

  • 1)落合慈之 監修:精神神経疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社, 東京, 2015
  • 2)山本晴義 監修:図解やさしくわかる うつ病からの職場復帰, ナツメ社, 東京, 2015
  • 3)浦部晶夫ほか 監修:今日の治療薬(2019年版), 南江堂, 東京, 2019
  • 4)上島国利 監修:最新図解 やさしくわかる精神医学, ナツメ社, 東京, 2017